『琥珀の心臓』

というわけで第1弾。ファンタジア大賞審査委員賞受賞作だということではあるけど、
新規開拓でいきなり新人のデビュー作からというのはちょっとチャレンジャー過ぎたかとも思いつつ、
ちょっと気になる感想みたのと「それなんてダイソード?」って感じのあらすじに惹かれてということで。


んで読んでみた感想としては、ダイソードっぽさは思った程感じなかったかな。
やたらとリーダーシップ発揮する委員長が率先して行動することで、異世界に戸惑うより先に
そこで如何に生き残るかの方策を練り始めるあたりはちょっとそれっぽかったけど、
全体的にみたら、巨大ロボットの占める割合は低めだし。ってーか解説でも言われてるけど、
後半の観念的な話の部分とかむしろファンタジーっていうよりSFに近い領域よな。


ただそのSFっぽさのある部分と、異世界漂流記ものとのバランスはあんま良くなかったというか
小説全体でのテーマがぼやけちゃった感じはあるかなー。解説での話から投稿時はもっとSFよりで
漂流記色薄かったものを編集の手が入って今みたいな形になったってことみたいだけど、
そのせいで中途半端になっちゃったって印象かなー。個人的には投稿時の形の方が見てみたい気がする。


一番良かったと思ったのはキャラクターの心情描写関連かな。主人公がちょっと異質過ぎて
読者が自己投影するにはアレなんだけど、男幼なじみ(敦也)−主人公(遙)−委員長(優子)
の関係、特に遙−優子の友情というか信頼関係が良かった。
つーか、優子が覚悟を決めて『お願い→命令』するシーンが私的に最高。

以下多少ネタバレ含むんで注意
この手の単なる自己犠牲じゃなくて、自分の気持ちや大切なものをあえて見捨てる非情な
「最善手」を選択する覚悟を見せ付けるのは弱いんだよなー。
あとはそれ以降のお互い相手を大切に思ってて、それ故相手の考えも分かってしまうが故に
相手の行動を止めることが出来ず、でも黙って見過ごすことも出来ない辺りの葛藤も良く描けてた。


まー敦也は正直幼なじみ特権だけでしかキャラ立て出来てなくて、ちょっと影が薄すぎな気はしたり、
人外ロリ少女は狙い過ぎな割にイマイチ活躍してないというか出てきた意味薄くないかとか、
描写をメインキャラに絞る必要があったためとはいえ、残りの21人のクラスメイトが
個別の人格を与えられずに「足手まといのクラスメイト」で一括されてしか扱われないのはどうなのとか
キャラ関係でも気になる部分はあったけど、その辺のマイナス差し引いてもお釣りが来るくらいには
上記の3人の関係は良かった。あとは優子→敦也な要素があれば個人的に最高なんだけど、まぁそこは好みの問題か。


ラストに関しては観念的な展開自体はともかく、残りのクラスメイトの処遇がああなるのは予想外。
手放しでハッピーエンドと言えないような展開は嫌いではないけど、個人的には「皆で元の世界に帰る」って
目的のために優子があれだけの覚悟を見せて、遙を切り捨てさえして見せたのに、結末がこうだと
折角の「覚悟」が台無しになっちゃう気がするので出来れば元の世界に帰って欲しかったかなー。
日誌のシーンとか、折角クラスメイト達の行動の兆し書いてるから、
てっきり脱出に向けたアクションしてたもんだと思ったら、そのままつぶされてましたはちょっと。
あの思わせぶりなシーンはなんだったのよって思ったし。


まー、色々不満のある部分は多かったから手放しでは褒められないけど、
キャラ描写の良さで最後まで面白く読めたし、何よりあの「覚悟」を示すシーンが
やたら気に入ったんで私的には当たりで良かった。
というわけで短編新規開拓シリーズは続けてみんとす、で締め。