『天に高く地に深く』
というわけで、昨日の日記で言ってたゲームはこれのことでした。
非18禁の同人ノベルゲーですが、文章・CG・音楽どれも十分にレベルが高く、市販の商業ゲームと比べても
秀でてるとまでは言えなくても、比べても遜色がない出来。流石に声はないけど、小説+αって考えても、
これで定価1000円(委託売りは1300円)というのはかなり破格の安さ。
基本的に選択肢無しの一本道(一カ所分岐はあるけど、結局両ルートPLAY必須なので)とはいえボリュームもそれなりにあるし。


内容はうち捨てられた廃ビルに、それぞれの理由で集い、出会った8人の男女の青春群像劇。
世界を揺るがすような事件は起きないし、特殊な力をもった登場人物も存在しない。
とにかく地味であることは疑いようがないし、作品全体を貫く雰囲気も決して明るいものではない。


登場人物それぞれの視点を通して描かれるのは、自己と他者の境界であり、自分がそこに存在する意味でもある。
偶然と必然に導かれた廃ビルでのお互いの邂逅と、いつしか日常となっていくそこで過ごす時間。
振り返ってみれば、わずか数週間の間の事に過ぎなくても、その廃ビルで過ごした時間、そこで得たものは
それぞれにとって掛け替えのないものであり、新たな一歩を踏み出させるものとなる。


結局、物語としてはただそれだけとも言える作品。
ただ、作品を通して描かれている登場人物達の抱える悩みは本来決して特別なものではない。
これを、弱さと切り捨てるか、若いと感じるか、あるいは共感できるかは、
読み手側の自身の背景に酷く影響される部分だろう。


どこかしらに、共感できる想いがあれば(そして、それは決して低い確率ではないだろう)
PLAYしてみてきっと心に残るなにかがあるし、あるいは今後の自分自身の考え方へも影響を及しうる作品になり得るかもしれない。
少しでも多くの人にPLAYしてもらいたいから採算考えずにわざわざこんな安い値段に設定したという話だし、
個人的にも多くの人に触れてみてもらいたい作品。


そこそこのボリュームのある体験版もあるので、興味があったらPLAYされるのお勧め。
基本的な雰囲気は変わらないし、特に驚くようなシナリオ展開があるわけでもないので、
体験版が肌に合わなかった人は本編をやっても得るものがある可能性は低いだろうけど、
逆に体験版をやって惹かれるものを感じた人なら、まず間違いなく本編をやる価値があるだろうと思う。


個人的には、ここまでピンポイントで自分の好みにあう作品があったということが
何よりも驚きであり、こういった作品が存在していることが非常に嬉しい。
単純な作品の評価を越えて、極めて思い入れ深く好きになれた作品。