「鎖 −クサリ−」

前回の宣言通りネタバレ&自己満足上等な感想を
前回はあえて名前を出さなかったけど、恵こそがこの作品の真のヒロインである
って事は、コンプした人ならまず否定をしないんじゃないかとは思う。
自分にとってはこの作品はサスペンスでも陵辱ものでも、謎解きものでもなくて、
あくまでも『片桐恵』っていう1人の少女を描くことこそが本質であるという認識。
作品トータルの評価を考えると、前回も書いたけど減点対象となるような要素は
かなり多いんだけど、こと『片桐恵』を描くってことに限定するならば、
殆ど瑕疵はなくて、極めて完成度の高い作品に仕上がっていると思う。


事件が起こる前のちょっとした描写の段階でも、ブリッジでの問いつめシーンでの
阿吽の呼吸っぷりとか主人公と恵のお互いに対する信頼の強さが一番描かれている。
この時点で主人公が最も信頼と好意を抱いてるのは(ちはやへの肉親としての情を除けば)
恵であると考えてほぼ間違いないだろう。個人的にはこの段階で、このキャラクターで
普通の学園ものなゲームも見たかったかなと思えたほど。


事件が起きたシーンでは、プレーヤーからは最初はどんな選択肢を選んでも
助けられないが、その後の岸田との対決では(特に夜の扉ルートでは)、精神面でも、
実際の行動力でも最も頼りになり、支えてくれるパートナーとして描かれる恵だが、
数々の死亡ENDや、ストーリーの進行等で徐々に明らかになっていく
「裏側」の存在により、ただの1ヒロインではないことが分かっていく。


そして明かされる「真実」と恵の背負った覚悟の重さと絶望の深さ。
その上で迎える事になる数々のエンディング。
主人公は真実を知ることなしに迎える、一見幸せそうながら、不安の残る結末や、
岸田に止めをさせなかった故に、共に帰ることの出来なかった結末。
全ては解決されたかに見えながら、明乃の一言でひっくり返されてしまう結末に
やっと心を通わせたと思ったら最後の最後で死なせてしまう結末などを
経た上で遂にたどり着ける、最終ENDはそれだけの重さと達成感を持って迫る。


内容的にも、犯され、脅されて殺人の片棒を担がされた事により、
絶望の底に落とされ、岸田による呪いという「鎖」に捕らわれてしまい、
どんな手段をとることも厭わずにたった1人で戦い抜こうとする
真のヒロインたる恵と、彼女の全てを受け入れ、自分も 「殺人」という
タブーを犯す事を誓い、同じ底まで落ちる事によって彼女を引き上げ、
その「鎖」を解き放ってみせる主人公という形で、これ以上なくまとまっている。


プレーヤーにとって都合の良いキャラクターではなく、裏表も持ち、
自分の意志でもって進んでいける魅力的なヒロイン。
岸田に「不幸なくらい頭が働く」と評される程の聡明さを持つが故に
標的にされ、鎖に捕らわれてしまった悲劇と、絶望の底に落とされながらも
元の生活に戻ろうとする意志と、そのためには何を犠牲にする事も厭わない覚悟、
一番頼りたい時に居てくれなかった主人公への恨みと、それでもなお主人公なら
今の自分を救ってくれるのかも知れないという淡い期待など様々な想いを抱えて行動する。
この辺りが『片桐恵』の魅力に他ならないと思う。そういった魅力的なヒロインを
その人間性ゆえの黒さも含めて全て受け入れた上で、同じ罪を背負いながらも
前向きに生きる道を示し、共に歩もうとする主人公という、最終ルートのエンディングは
ある意味自分が最も望む関係性−同じ罪を背負うが故の、決して断ち切たれない深い絆−
ってものを見せてくれた、これ以上はないという位の最高のエンディングだった。